大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成5年(ワ)3573号 判決 1995年11月14日

福岡県春日市上白水一八七番三号

原告兼反訴被告

(以下、単に「原告」という。)

真田彬侃

右訴訟代理人弁護士

福地祐一

右補佐人弁理士

松尾憲一郎

東京都品川区戸越四丁目七番一五号

被告兼反訴原告

(以下、単に「被告」という。)

吉村紙業株式会社

右代表者代表取締役

吉村正雄

右訴訟代理人弁護士

辻井治

主文

一  原告の本訴請求をいずれも棄却する。

二  原告は、被告に対し、金三〇二万九四九二円及びこれに対する平成五年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを六分し、その五を原告の、その一を被告の各負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  本訴

1  被告は、別紙目録記載のデザインを自ら使用し、若しくは他人をして使用させてはならない。

2  被告は、原告に対し、金二〇〇万円を支払え。

二  反訴

原告は、被告に対し、金四〇二万九四九二円及びこれに対する平成五年一一月一三日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告に商業デザインの製作を依頼した被告が、右デザインを使用した包装箱を顧客に販売し、顧客において右包装箱入りの商品を販売していたところ、右デザインの製作者たる原告が、著作権等の譲渡の事実はなく被告の行為は原告の著作権を侵害するものであるとして、被告に対してデザイン使用差止めなどを請求し(本訴)、これに対し、被告は、原告から右デザインの著作権を譲り受け、あるいはその使用許諾を受けていたのに、原告が右のような主張をして被告の顧客の商品販売を不当に妨害したため、被告に損害が生じたとして、原告に対し、その賠償を請求した(反訴)事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、デザインP&Pという名称でデザイン事務所を開き、商業用デザインの製作等の業務に従事するものであり、被告は、各種紙袋の製造及び販売等を目的とする株式会社である。

2  平成元年一〇月ころ、原告は、被告から、被告の顧客である小林製茶が用いる茶用包装箱のデザイン製作の依頼を受け、別紙目録記載のデザイン(以下「本件デザイン」という。)の原画を製作した上、そのカラーコピーを被告に交付した。その後、何度かの修正を経て、被告において、小林製茶への販売に努めたが、平成二年八月ころ、小林製茶は本件デザインを採用しないことになった。

なお、本件デザイン製作に関して、被告から原告に対し合計二三万一〇〇〇円が支払われた。

3  被告は、本件デザインの第三者への売込みに努めたところ、平成三年初めころ、有限会社お茶の秋月園(以下「秋月園」という。)が本件デザインを採用することになり、秋月園は、平成四年四月から、長崎県所在のハウステンボス内で本件デザインを用いて被告が製造販売した茶箱入りの茶の販売を開始した。

4  他方、原告は、平成四年末ころ、株式会社まるなか本舗(以下「まるなか」という。)に対し、本件デザインの使用許諾を与え、まるなかは、本件デザインを用いた包装箱入りの蒲鉾を、同様にハウステンボス内で販売することにした。

5  そのため、ハウステンボスプロジェクト販売本部は、平成五年三月一九日、秋月園に対し、本件デザインの版権はまるなかにあるとして、その使用の中止を指示し、また、原告は、秋月園の右茶箱を回収することなどを求めた同年四月一日付書面を被告に送付するとともに、これを右販売本部にファックス送信した。これに対し、被告も、まるなかに対し同社の右包装箱の使用中止などを求めた同年五月二八日付書面を送付して対抗したが、結局、秋月園はハウステンボス内での右茶箱入りの茶の販売を中止した。

二  争点

1  原告から被告に対し、本件デザインの著作権の譲渡又はその使用許諾がなされたか否か

(一) 原告の主張

(1) 著作権の譲渡の有無について

原被告間の取引には、基本となるべき契約書が交わされておらず、著作権の譲渡に関する明示の取決めもないから、著作権そのものを譲渡したのか、著作権者が著作権を留保したままその複製使用を許諾したのかを検討するに際しては、著作権が製作者に発生する無限定の権利であることに鑑み、原則として複製使用の許諾の有無の問題として捉えるべきである。

商業デザイン業界の通念としては、デザイン製作者から発注者に対してデザイン原画ないし反射原稿が引き渡された場合においても、その著作権はデザイン製作者にあると考えられており、まして本件では原告は被告に対しデザイン原画も反射原稿も引き渡していないから、本件デザイン著作権を被告へ譲渡したとは到底認められない。

(2) 使用許諾の有無について

ア 商業デザイン業界における取引慣行は、以下のとおりであり、原被告間のデザイン発注・受注に関する取引方法も同様であった。

発注者からデザイン製作者に対し、発注者の売込先の製品に関するデザインの製作依頼があり、これに応じてデザイン製作者がデザインを製作し、デザインカンプといわれる見本を発注者へ引き渡してデザイン提案を行う。デザインカンプはカラーコピー、絵の具による手書き、シルク印刷などで製作される。この段階で発注者は、デザイン製作者に対してデザイン提案料を支払う。発注者は、デザインカンプを売込み先へ持ち込んでその採用交渉を行い、売込み先の意向を聞き修正を重ねるなどして、売込み先が採用決定をした場合、発注者はデザインを印刷に付すが、この際発注者は、デザイン製作者に対して提案料とは別料金を支払って、デザイン原画又は反射原稿、版下、パーツ、色指示レイアウトなどの引渡しを受ける。デザイン製作者は、デザイン原画又は反射原稿を相手方に引き渡すことによりそのデザインの使用許諾を与える。

本件において、原告は被告に対し、本件デザインの原画も反射原稿も交付しておらず、被告に対して本件デザインの使用許諾を与えていない。なお、原告は被告に対して、平成元年一一月六日、反射原稿一点の作成料名目で一万五〇〇〇円を請求していをが、ここでいう反射原稿とは、内箱一点の修正に際し本件デザインの婦人像の代わりに差し替えた水彩画の飛脚イラストのコピーを指すものであり、よって、被告に対しイラスト反射原稿は引き渡されていない。

イ また、以下の事情からも、原告が被告に対して本件デザインに関する使用許諾を与えていないことは明らかである。

原告は、デザイン原画ないし反射原稿に代えてカラーコピーを引き渡していたのではない。デザイナーは、自ら製作したデザインが最良の状態で使用されることを願うものであり、特に本件デザインのような高度かつ複雑なものについては、印刷の鮮明さなどに差が出るため、デザイン原画ないし反射原稿をもとに印刷するのが業界の慣例かつ常識である。

特定の売込み先によるデザインの採用決定がなされる以前に、発注者に対してデザインの使用許諾を与えることは、本件デザインの使用の対象や方法について無限定の使用を許す結果となってしまう。

原告は、小林製茶の茶箱のデザインを提案するに際し、被告より合計二三万一〇〇〇円を受け取っているが、これはあくまでもデザインの提案料であって、この支払いをもって直ちに原告が被告に対し無限定な本件デザインの使用許諾を与えたわけではない。

(二) 被告の主張

(1) 商業デザイン業界における取引慣行は、以下のとおりである。

デザイン製作の発注を受けたデザイン製作者が、発注者側のデザインに係る要望に応じてデザインを製作し、その成果たるデザイン原画ないし反射原稿を見本とともに発注者に引き渡し、その代金を受領する。この際、右デザインの著作権が譲渡されるか、少なくとも使用許諾がされる。当該デザインを用いた製品が発注者の顧客に採用された場合、発注者は右デザインを印刷に回すが、その際、版下、パーツなどを必要とする場合には、デザイン原画などの作成代金とは別にその代金を支払う。

(2) 原被告間のデザインに関する取引方法は、右の取引慣行とは異なり、以下のようなものであった。

被告が原告に対しデザイン製作を発注し、原告がデザイン製作をしてその成果物を被告に引き渡し、その代金を受領する。この時点で右デザインの著作権の譲渡ないし使用許諾がなされる。そして、右成果物の引渡方法は、ほとんどの場合デザイン原画ないしイラスト反射原稿を引き渡すというものではなく、カラーコピーを引き渡してこれに代えるというものであった。被告は、右成果物を売込み先に持ち込み、採用に至った場合には印刷に付することになるが、その場合においてもカラーコピーをそのまま用いて印刷を行うことが多く、また、改めてデザイン原画、イラスト反射原稿、版下、パーツなどの引渡しを受けて印刷を行うときは、それに見合う代金を別途支払っていた。

本件において、原告は、被告に対して本件デザインのカラーコピーを引き渡すとともにその対価二三万一〇〇〇円を受領しており、被告は少なくとも本件デザインの使用許諾は受けているものである。

(3) 原告が被告に対し、本件デザインの著作権を譲渡ないし使用許諾したことは、以下の事情からも明らかである。

ア 平成元年から平成三年までの原被告間のデザイン関係総取引件数は八三八件、総金額二五三八万〇二六六円に上り、このうち本件のような箱関係のデザインだけでも七四件、総金額八四六万二〇〇〇円に上るところ、かかる多数の取引を継続しながら、本件訴訟までに原告が被告に対して、提案料や使用許諾料などを問題にした形跡は全くない。

また、右七四件についてカラーコピーの引渡しは全件においてなされたが、反射原稿の引渡しは二件にすぎず、カラーコピーが引き渡されただけで製品化されたものが六件ある。そして、カラーコピーから印刷することはスキャナー(色分解機)を用いれば容易に行い得る。

イ 右箱関係のデザイン取引における色指示代、版下、パーツ代及び反射原稿代は合計七九万三〇〇〇円であり、取引総額八四六万二〇〇〇円の一割にも達しないのであるから、かかる金銭の支払いが当該デザインの使用許諾権取得にとって決定的要素となるとは到底考えられない。また、反射原稿などの引渡しが重要性を有しているなら、当然、原被告間の取引開始にあたり明示されていたはずであるのにその明示もなかった。

ウ 本件タイトル取外しに係る修正については、被告従業員伊藤和徳が原告事務所において、原告従業員原彰彦に対し、他社へ売り込んで使用する旨説明した。また、原告は被告に対し、改めて一部修正に係る代金を請求し、被告はこれを支払った。

エ 原告はまるなかに対し、三〇万円で本件デザインの使用許諾しているが、右金額は、本件デザインに関し被告が原告に支払った金額とあまり異ならず、原告が反射原稿等を所持している点も同様である。

2  原告の損害(本訴)

(一) 本件デザイン使用許諾料 一〇〇万円

被告及び秋月園が原告に無断で本件デザインを使用したことにより、原告の本件デザインについての著作権は侵害され、このため原告は、本件デザインの使用許諾料相当額一〇〇万円の損害を受けた。

(二) 慰謝料 一〇〇万円

被告が、まるなかに対して、平成五年五月二八日付で本件デザインの使用中止を申し入れたことにより、原告は信用を著しく棄損され、この結果一〇〇万円に相当する精神的損害を受けた。

3  被告の損害(反訴)

(一) 商品在庫分引取りによる損害二〇二万九四九二円被告は、秋月園より本件デザインによる茶箱の取引を中止され、それまでの在庫分も引き取らざるを得なくなった。その結果、被告には右金額の損害が発生した。

(二) 慰謝料 二〇〇万円

原告が本件デザイン著作権をまるなかへ二重譲渡ないし二重使用許諾したこと並びに被告の取引先である秋月園及びその商品販売場所であるハウステンボスに対して、被告及び秋月園が本件デザインを無権原で使用している旨申し入れたことにより、被告は、関係者特に秋月園に対する信用を失墜させられ、また、事態収拾のため被告は組織的に諸々の対応を余儀なくされた。これを金銭で慰謝するならば、少なくとも二〇〇万円が必要である。

第三  争点に対する判断

一  争点1及び2について

1  証拠及び弁論の全趣旨によると、本件の経過として、前記第二、一の争いのない事実2ないし5のほか、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、被告の依頼を受け、本件デザインの原画を製作した上、右原画をカラーコピーして「長崎ばってん茶大浦みどり」、「長崎ばってん茶港のあめ」、「長崎ばってん茶出島みどり」などのタイトルや小林製茶の店名などを貼付したもの合計六点(表裏用各三点)及び内箱三点を製作し、右各カラーコピーを右内箱三点の表裏にそれぞれ貼付した上、平成元年一〇月一四日、これを被告に引き渡し、被告からその対価として一二万円を受領した。

さらに原告は、本件デザインをカラーコピーして「長崎ばってん茶」などのタイトルを貼付したもの及び外箱各一点を製作し、右カラーコピーを右外箱に貼付した上、同年一一月六日、これを被告に引き渡し、被告からその対価として五万円を受領した。また、被告より、「長崎ばってん茶港のあめ」を冠した内箱デザインの修正依頼があったことから、原告は「長崎ばってん茶港のあめ」を「長崎ばってん茶」に、本件デザイン中の婦人像を水彩画の飛脚像にそれぞれ変更し、同日、被告に引き渡し、被告からその対価として二万円を受領した。

その後、被告より、「長崎ばってん茶出島みどり」を冠した内箱デザインの修正依頼があり、原告は本件デザイン中の婦人像を版画の飛脚像に変更して、同月二一日、被告に引き渡し、被告からその対価として一万五〇〇〇円を受領した。

(甲三の1ないし3、四の1ないし3、五ないし一二、一七、証人原彰彦(第一回)、原告本人(第一回))

(二) 被告は、本件デザインを小林製茶以外の顧客に売り込むため、平成二年八月ころ、被告の従業員である伊藤において原告の従業員である原に対し、小林製茶が本件デザインを採用しなかったこと及び本件デザインを他の顧客に売り込むことにしたことを告げた上、本件デザインのカラーコピーに前記(一)のようなタイトル等を付したものから、右タイトル等を削除するなどの修正を二度にわたって依頼し、その対価として同年一〇月ころまでに合計一万一〇〇〇円を支払った。(甲一一、一三、一四、乙三の1、証人原(第一回)、証人伊藤和徳、原告本人(第一回))

なお、原告は、右タイトル等の削除の依頼に際し、被告が本件デザインを第三者のために用いる目的であることを何ら説明せず、逆にそれがあたかも小林製茶の意向であるかのごとく振る舞っていたため、原告はそれが小林製茶の意向によるものと理解していたと主張しているけれども、証人伊藤は「(右修正依頼の際に、原に対し)他店に使うことをはっきり言っている」と証言しているところ、証人原(第一回)は伊藤からの右修正依頼すらよく覚えていないと証言していること、原告から被告に対する右修正関係の請求書(甲一四)には「(名前取り)」と記載されており、原告においてタイトル等取外しの修正であることは認識していたこと、小林製茶が本件デザインを採用しないことになった後にタイトルを取るということは、まさに本件デザインを第三者に売り込むための修正であるとしか考えられないこと等に照らすと、証人伊藤の右証言は十分信用することができ、この点に関する原告の主張は採用できない。

2  また、証拠によると、原被告間の取引関係等について、以下の事実が認められる。

(一) 平成元年ころ、被告は、原告との間で、茶、海苔製品などに関する包装箱のデザインを製作することなどを内容とする取引を開始し、平成三年ころまでの間に一〇〇件以上の取引を継続して行ってきた。

(甲一八の1ないし16、一九の1、2、乙九の1ないし7、一〇の1ないし6、一一の1ないし3、証人福岡洋(第一回)、証人原(第二回)、原告本人(第一回))

(二) 原被告間において、デザイン製作に関する契約書を作成したことはなく、著作権などの譲渡に関して明示の合意がなされたこともなかったが、原告は被告に対して昭和六四年一月五日付で価格表を提示しており、それには「茶袋デザイン料」、「パッケージデザイン料」、「包装紙・キャリーバッグデザイン料」の名目でデザイン製作料金が記載されており、実際の取引においても、「デザイン」、「袋」、「外箱」、「内箱」、「ラフ」、「パーツ版下」、「色指示」、「反射原稿」、「修正」などの名目で代金請求がされた。

(乙八、一二の1、2、一三の1ないし33、一四の1ないし36、一五の1ないし15、証人福岡(第一回))

(三) 平成元年から平成三年までの間における原被告間の箱関係のデザインに関する取引の実態等は概ね以下のとおりであった。

被告は、デザインを使用する顧客を特定し又はしないで(顧客を特定しないで発注され被告に引き渡された作品を、以下「既製品」という。)、原告に対しデザインの発注を行い、原告は右発注に応じてデザイン原画の製作をした上、被告に原画ダミー(直接絵の具などで描いたものであり、それとは別に原画や反射原稿は存在しない。)や原画のカラーコピーなどを引き渡し、被告は原告に対してその対価を支払う。

顧客が特定している場合には、被告は右カラーコピーなどを顧客に示してその意向を聴取し、顧客が修正を求めたときは原告に対し修正を依頼し、原告は修正の都度修正料を受領して当該デザインの修正をする。既製品の場合にも、被告が原告に修正を依頼することもある。顧客又は被告がデザインの採用を最終的に決定した場合、被告は対価を支払って原告より版下、パーツ、反射原稿、色指示票などの印刷に必要な部品の引渡しを受け、それらを印刷会社に持ち込み印刷することもあるが、版下、パーツなどの部品の引渡しを受けないまま右カラーコピーなどを直接印刷会社に持ち込み印刷することもある。原告が請求する反射原稿代は取引一件につき二万円から三万円程度であり、反射原稿の引渡しのあった取引において原告が請求するデザイン料は七万円から一三万円程度である。原告より原画ダミーないしカラーコピーなどの引渡ししかされずに被告により製品化がなされた事例は本件を除いて少なくとも一〇件ある。

(甲一八の1ないし16、一九の1、2、乙九の1ないし7、一〇の1ないし6、一一の1ないし3、証人青木雅彦、証人福岡(第一回)、証人原(第二回)、原告本人(第一回))

(四) 平成二年九月ころ、被告は原告に対し、お茶の赤星園の商品に関するデザイン製作を依頼し、同年一〇月ころ原告と打ち合わせをした後、原告においてデザインを製作し、同年一一月中旬ころ、原告方事務所において、原告から赤星園の社長に対し、お茶の内箱三点と外箱一点のデザインのカラーコピーを交付した。赤星園の社長は、右デザインを気に入り、その場でこれを商品にする旨答えた。その後、右カラーコピーをそのまま昭和パッケージに交付して、お茶箱の包装紙を印刷し、製品を製作した。

(乙二〇の1ないし3、証人福岡(第一、二回)、原告本人(第二回))

3  以上を前提として争点1につき検討するに、原被告間の取引形態は前示2(二)及び(三)のとおりであって、原告が主張するような提案↓顧客の採用決定↓原画又は反射原稿の交付による使用許諾といった明確な方式をとっていないものであるところ、被告は本件以外にも少なくとも約一〇件の取引において原画ダミーないしカラーコピーなどしか引渡しを受けないまま印刷、製品化をしているのに、原告はこれに対して何らの異議を唱えた形跡はなく、この点は本件後の取引である赤星園関係の取引においても全く同様であること、他方、原告が被告に提示した料金表に使用許諾料などの記載はなく、また、これまで原告が被告に対し使用許諾料などの名目で代金請求をしたことはなかったこと、本件を含む各取引においてデザイン料として請求された金額は取引総額中の主要部分を占めているのに対し、反射原稿代が請求された場合においても、その金額は比較的低額にとどまること、カラーコピーから印刷するごとは業界で一般に行われていることであり、その出来ばえも反射原稿などを用いる場合より若干落ちるものの製品化するのに支障のない程度であると認められることなどの各事情に鑑みれば、原被告間の取引について一般的にカラーコピーなどを交付してデザイン料の支払いがなされた時点で原告が著作権を有するデザインの使用許諾がなされているものと推認される。これを本件についてみても、被告は本件デザインに関しデザイン料一七万円を含む合計二三万一〇〇〇円を支払っていること、右金額は、原告がまるなかから受領した本件デザインの使用許諾料と本質的な差がないこと、さらには、平成二年八月ころ被告従業員の伊藤が原告従業員の原に対し小林製茶が本件デザインを採用しなかったのでこれを他の顧客に売り込むことにした旨告げて、タイトル等の削除などの修正を依頼したのに対し、原告及び原は何ら異議などを唱えることなくこれに応じていることなど、原告においてすでに被告に対し本件デザインの使用を許諾していたことを強く推認させる事情がある。以上を総合して判断すると、原告においてデザイン料の支払いを受けてカラーコピーなどの引渡しをした時点で、原告は被告に対し本件デザインの使用を許諾したものというべきである。

この点、原告は、前示のとおり、被告に対して本件デザインの使用許諾をしていない旨主張し、仮に本件デザインの使用許諾が肯定されることになればその無限定な使用を許容する結果になるとも主張するが、証人山永裕の証言その他本件の全証拠をもってしても原告が主張するような商業デザイン業界の取引慣行を認めることはできないし、既にみたところからすれば、本件において原被告とも反射原稿などの引渡しがあった時点において使用許諾がなされるとの意思を有していたとは到底認められず、また、原被告間に原告製作にかかる反射原稿を用いて印刷しなければならないという合意があったとも認められない。また、原被告間には既製品に関する取引も行われており、そのデザイン料については既製品か否かによって特段の差異はないと認められるところ、既製品に関する取引においては、原告は、当該デザインを使用する顧客が確定しないまま被告に使用許諾を付与しているものと認められる。

したがって、原告の前記各主張はいずれも理由がないというべきである。

4  以上のごとく、原告は被告に対し本件デザインの使用を許諾したと認められ、被告が秋月園に本件デザインを使用させた行為に違法性はなく、不法行為は成立しないから、争点2については判断の必要がない。

二  争点3について

1  前示のとおり、原告は被告に対し本件デザインの使用を許諾したのであるから、以後、原告には、被告が本件デザインに関する権利を行使するに当たって被告に損害が発生しないよう十分注意する義務があったにもかかわらず、原告はこれに違反し、まるなかに本件デザインの使用を許容したものである。したがって、原告としては右により被告に生じた損害を賠償する義務があるものというべきである。

2  そこで、被告の損害につき検討するに、乙七の1ないし3、証人佐々木重雄の証言によると、原告の右不法行為により秋月園は本件デザインの使用を中止し、右デザインを使用した製品等を平成五年七月ころ被告に返品し、被告は平成五年九月二〇日、その填補として秋月園に二〇二万九四九二円を支払ったことが認められるところ、右製品は「街道銘茶」、「秋月園」などと表示されている(甲一五の1、2)から、被告はそれらを他に転用することもできず、また、今後それらを秋月園に引き渡して再度使用してもらうことも実際上困難であると推認されるから、右金員全額を被告の損害と認めるのが相当である。また、被告は秋月園などに対して種々の対応をすることを余儀なくされたばかりか、その信用も相当程度損なわれたことが認められる

(乙一七、証人佐々木)のであり、これに対する慰謝料は一〇〇万円とするのが相当である。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は、金三〇二万九四九二円及びこれに対する本件不法行為の後である平成五年一一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容するが、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西理 裁判官 岡健太郎 裁判官 原啓章)

<省略>

(注) 原告の説明によると、本件デザインは、遠景に香焼島、その手前に江戸時代初期の長崎港、出島の松林、商館、眼鏡橋、大浦天主堂、異人館のベランダに佇立する蝶々夫人を模した婦人を配したものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例